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- 作者: 無着成恭
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/07/17
- メディア: 文庫
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母の死とその後
江口江一
ほんとうに心の底から笑ったことのない人、心の底から笑うことを知らなかった人、それは僕のお母さんです。
(25頁)
ほんとうに、「江一さえ大きくなったら・・・・・・」と、そればっかりのぞみにして、できることなら、江一が大きくなるまではなんとか借金だけはなくしておきたいといいながら、だんだん借金をふやしてゆかねばならなかった僕のお母さん。生活をらくにしようと思って、もがけばもがくほど苦しくなっていった僕のお母さん。そしてついに、その貧乏に負けて死んでいった僕のお母さん。その母さんのことを考えると「あんなに働いても、なぜ、暮らしがらくにならなかったのだろう。」と不思議でならないのです。
(29頁)
病院ぐらし
上野キクエ
しかし、私は考えなければなりませんでした。もしも、売る山がなかったら、もしも売る牛がいなかったら、もしも、なんにも金のはいる道のない家だったら、私たちは、また私たちのお母ちゃんはどうなっていることだろうということです。だから、売る物があるお前の家は、感謝しなければならないのだと、いろいろな人が教えてくれるのだけれでも、そらな、売る物を何一つ持っていない人は、なにに、どう感謝したらよいのだろう。
(59頁)
なんでも聞く子供
門間きみ江 門間きり子
ハイハイとなんでもきく子供は封建的な子供だというけれども、ハイハイときかねば生活がますます苦しくなるから、ぜひともきかんなねんだ。
(118頁)
くぼ
川合義憲
私たちの先生が、はじめてきたとき、
「勉強とは、ハテ? と考える事であって、おぼえることではない。そして、正しいこととな正しいといい、ごまかしをごまかしであるという目と、耳と身体全体をつくることである。そして、実行できる、つよいたましいを作ることである。」
と壇の上で、さけんでから、もう一年たった。
(236頁)